インプレッション

Vetteに乗り込もうと運転席側のドアに近づくにつれ、艶やかなボディが足を
止めさせる。
削り込んだFRPであるにもかかわらず、なんという美しさなのだろうか。
実際、クラックやその他のトラブルは絶えないが、そのたびに部分的な補強と
再塗装を繰り返している。
美しさを保つには、それなりの苦労があるのだ。
イーデルのホイールからは、大径のドリルド・ローターと8ポットのキャリパー
を覗き見ることができる。
また、フロント・ホイールはネガティブ・キャンバーになっていることが、
肉眼でも確認できる。

30年以上も使用されている、少々磨り減ったキーを差込み、ドアをあける。
リモコンのドア・ロックに慣れている最近のドライバーにとっては、新鮮な感覚
がある。
33cmの小径ステアリングと、コブラ・バケットのサイドシルとの隙間に太腿を
挟み込むようにして乗り込むと、ステアリングが近い位置にあるのに驚く。
6点式の極太のシートベルトを締める。


キル・スイッチを解除して、エンジンキーをひねるとセルモーターがゆっくりと
回り、爆音と共にVetteは目覚める。
ホーリーから、コンピュータ制御のマルチポート・インジェクションに変更され
ているために、始動前の儀式は必要なくなった。
しかし、それでも圧縮比が高い大排気量エンジンであるために、セルモーターは
強力な物に交換されている。

短い暖機運転の後、ダグナッシュの5速ミッションから伸びるシフトレバーを
1速にこじ入れる。シフト・ストロークは大きめで、力も要る。
まるで工場の機械のレバーのような感触だ。
また、クラッチはスポーツジムのトレーニング用のマシンのように重い。

「バリッ、バリッ、クァン、クァン」と、レーシングマシンさながらに反応する
エンジンをブリッピングしながら、クラッチを合わせる。
あたりは、一般的なアメリカンV8エンジンとはかけ離れた音色に包まれる。
7000ccという大排気量エンジンでありながら、高回転型にセッティングされている為に、
低速でのトルク感はあまり感じられない。
改造途中でパワー・ステアリングを装着しているので、
駐車場での取り回しはさほど苦痛ではない。

ロールゲージに囲まれた室内から小さなフロント・ウインドウを通して、
大きく膨らんだL88フードと、その中のエアクリーナーを見ることになる。
現代の車には無い、物凄い圧迫感だ。

アクセルを踏むと暴力的な加速が始まる。
甲高いエグゾースト・ノートに包まれながら、レッド・ゾーンの始まる7000rpmまでは、
それこそあっという間。
電光石火のシフトワークを要求されるが、ダグナッシュの5速ミッションはなかなか
それを許してはくれない。少々慣れが必要だ。
シフトアップを繰り返してもシートに体が押し付けられる加速感が続き、
200km/hに到達後も強烈な加速は止むことがない。
加速重視のファイナルが与えられている為に、5速のレブ・リミットである最高速は
230km/hとなるが、到達時間が短い。
スロットル全開をくれた場合は265サイズのポテンザを中間加速からでも
ブレイクさせてしまうので、慎重なアクセルワークが必要となるのだ。

低中速域でステアリングを左右に揺さぶる。
吟味されたスプリング、ショック・アブソーバー、ブッシュ、スタビライザー等の効果で、
地を這うように俊敏な車線変更が可能だ。
ただし、超高速域では絶対的なストロークの不足のため、
比較的唐突にオーバーステアが発生することがある。
この問題は、後日ビルシュタインのチューニングによって、すばらしく改善されている。
何度も調整を繰り返す事により、現代のスポーツカーに匹敵する足回りを実現している。

狭いエンジンルームの後方は、コックピットを含めて廃熱スペースとなっている。
(積極的にそうしているわけではないのだが・・・)
そのため、ドライバーは強烈な暑さと戦わなくてはならない。

最高の技術で仕上げられた美しさと、現在のテクノロジで獲得した
暴力的な速さのコンバーチブルは、
アイアンVetteの正常進化型のひとつと言えるに違いない。



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